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「関西での大学生による団地再生の実証実験」

関西では、小職がまだRIAに在籍中の2002年頃に、都市住宅学会関西支部の中に「住宅団地のリノベーション研究会」を立ち上げ、これが団地再生支援協会の関西での活動を実質的に担った。2006年から武庫川女子大学に移籍したが当初は五里霧中で、団地再生についてのシンポジウムや団地再生卒業設計賞展の関西での開催や、あるいは、URが分譲した茨木市富田第二団地で、建て替えずに団地を活性化する方策の検討などを、同団地の建替え委員会と共に行ったが、同委員会メンバーの交代に伴い立ち消えになった。本学近隣の浜甲子園団地の空き店舗の一室を借り、団地と大学の交流を始め、高齢者に外出機会を提供するヨガや小物づくりの教室等で一定の効果を挙げたが、参加者同士の交流はなかなか生まれなかった。当該の空き店舗は建て替えに伴い無くなったが、同時期から音楽学部の学生有志が同団地で始めた、住民に歌声を届ける「浜甲カンタービレ」は、その後団地内でコーラスグループが生まれるまでに発展して現在に至る。

一方で、その様な中で関東とは異なる動きとして記憶にも残り、世間的なインパクトもそれなりにあったと考えられるのが、建て替えない団地再生を目指して、高経年団地の住戸も様々な用途に利用できるという実証を、大学生が模索しだしたことである。高経年団地の住戸の活用方法を探ろうと、京都大学名誉教授の故巽和夫先生からUR都市機構に働きかけていただき、解体直前の住棟を借用して、複数の大学が1住戸ずつを受け持ち、夫々がセルフリノベのアイデアと技術を競うことを、都合4回実施した(その内の1回は大阪府営住宅を借用)。

・2007年、UR西武庫団地:5階建て階段室型住棟の1DK28㎡の住戸を、関西大学、京都工芸繊維大学、大阪市立大学、大阪工業技術専門学校、武庫川女子大学の5校の学生が改修。

・2008年、UR浜甲子園団地:5階建て階段室型住棟での51C型に近い2DKの住戸を、関西大学、京都工芸繊維大学、大阪大学、大阪市立大学、神戸芸術工科大学、武庫川女子大学の6大学の学生が改修。団地の共用施設やバルコニー側から出入りできるギャラリーや店舗といった用途の提案が多かった。

・2010年、UR中宮第一団地:RCフレームのCB造2階建てのテラスハウスを、関西大学、京都工芸繊維大学、大阪市立大学工学部、同生活科学部、神戸芸術工科大学、大阪工業大学、武庫川女子大学の8チームによる改修で、界壁がCB造、2階床が木造だったので、隣戸とつなぎ吹き抜けを作るなどの空間改変が実現できた。

・2014年、大阪府営瓜破東団:5階建て階段室型2Kに1室増築がなされた住戸を、関西大学、京都工芸繊維大学、大阪工業大学、武庫川女子大学の4チームが、住民が集まれる共用キッチン、ゲストハウス、共同浴場、コミュニティリビングに改修した。


一方では、2009年にURによる向ヶ丘ストック再生実証試験が実施され、住宅団地のリノベーション研究委員会のメンバーが参画して、スラブや壁等の撤去、二戸一化やメゾネット化などの構造改変、自然風の導入方法などの技術開発や手間・費用等の検証が行われた。

この様な一連の活動から、URでもストック活用の動きの中で、住戸のセルフリノベを許容する動きが出だして、セルフリノベのカリスマ主婦が出現する現象も現れ、更にストック活用でのUR×MUJI等による住戸リノベが普及しだした。そして、この様な結果から、住宅団地のリノベーション研究会は、ストック活用(URでは2018年時点25万戸)での住戸リノベーションの動きを刺激したことを確認して、小職が武庫川女子大学を退職したのを機に解散した(小職はその後、同大学の非常勤で地域と大学を繋ぐ社会連携推進室の室長を拝命して現在に至る)。

その後は、例えば近隣の武庫川団地(分譲を含め約7000戸の大団地)等からの様々な活動要望に対し、学内の多様な学科の参加を促進する様に働きかけを行っているところである。


 

大坪 明(おおつぼ・あきら)

元会員 武庫川女子大学特任教授


 

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